住む・暮らす

くらしかた・すまいかた

Vol. 06:八王子の家01

改修にかかる経緯

○たいへん歴史のあるお宅ですが、この家を改修して住むことになった経緯を教えてください。

Wさん: この家の以前の主は老朽化などの理由で家の維持管理が難しくなり、誰かに譲りたいという希望をお持ちでした。 たまたまご縁があって私が譲り受けることになり、改修して住むことになりました。

○建物だけでなく、敷地も広そうですね。 周りの樹木も非常に大きなものが多いですし、以前の持ち主の方はどんな方だったのでしょう。

Wさん: もともと22代続いた地主の方で、相当広い土地をお持ちだったようです。農地解放の後、山林を都に譲られ、今は裏の山林は都の保全林になっています。

○Wさんは以前から、古民家に住みたいという希望をお持ちだったのでしょうか。

Wさん: そうですね、古いものは比較的好きなんですけど、その中でも究極のものが「古民家」でしょうか。 この敷地は富士山が見え、裏山があり、川があって、眼前に広い平野が広がる。家を構えるには理想的なシチュエーションなんですね。風水でいう東の青龍、西の白虎、南の朱雀、北の玄武に合致した地形的にも恵まれた場所を、先人が住居として選んだのでしょう。そういう家を譲り受けることができて、本当に運がよかったと思います。

○これだけ古いお宅なら、文化財指定を受けられるのでは。

Wさん: 家を改修する際には、いろいろな事を考えて都の文化財登録を受けようともしましたが、諦めました。理由としては、文化財保護を受付ける窓口が非常に狭かったことでした。「文化財登録」に熱心な地方行政のあることも知っておりましたので、東京都の場合は財政難からか積極的とは言えませんでした。特に八王子市に申請を行った時の反応は消極的で、話を進めるのが非常に面倒になり、「もう自分でやってしまえ」と。結果的には行政の制約を受けずに思い切った改修ができたと思います。

改修ポイント・その1 『 土台と床の総取り替え 』

改修工事の様子
①改修前の基礎部分の様子。痛みが激しかったため、柱の根元から上を残して基礎部分を作り直すことになった。②作り直す部分とそのまま残して使う部分を分けるため、柱を1本1本を保持し、土台を外していく。③保持した柱の下にコンクリートで基礎を作るため、溝を掘り、割栗を敷く。④型枠をセットしてコンクリートを流しいれる。⑤型枠を外して柱を乗せる。写真は仮置き中のもの。⑥基礎の上に土台を置く。⑦元の柱(濃茶部分)と基礎・土台まで、新たな柱(白木部分)で継ぎ直した。 ⑧基礎の上に床束をたて、大引、根太を置き、床板を貼る ⑨新たに組みなおされた軸組のアップ。色の濃い柱が残された部分。
○改修時に一番苦労されたのは、どんな点でしょうか。

Wさん: 見て頂くと分かるんですが、この家に使用されている梁や柱の多くはまっすぐではないんですね。
今の建築では設計図が先にあって、その図面どおりに木を合わせることになります。
しかし昔の建築では木の形と性質を見て、木を組むわけです。ですから現代の設計図面で改修を進めると現場ではどんどん柱の位置がずれていく。
それをどうやってずれないように繋いでいくかというのが、大工さんが一番苦労したところですね。
現在でも優秀な宮大工さんは木の性質を見て木を組みますが、木の表裏を読めない大工さんが増えていると聞きます。 幸い私は非常に腕の良い大工さんと巡り合え、大変な苦労のもとに古い部材をうまく利用しながら、改修を進める事が出来ました。

○具体的には、どういった手順で改修工事が行われたのでしょう。

Wさん: 1階部分の柱から上の材は以前のままですが、床と土台はすべて作り直しました。
改修後2年前から1年くらいかけて、1本1本の柱を保持してからその下の作業を行い、基礎土台の作成、床張り、新旧の柱の接合と3回の工程で今の材で床と土台を作り直しました。
この家は母屋と2つの蔵がつながっているので、母屋を移動したり、家全体を上げて基礎を作ることができませんでした。現状を維持しながら、一箇所づつ改修してゆく以外の方法はなかったんです。

ですから、すべての柱を保持しては直し、保持しては直すという非常に手間のかかることになり、結局、それに1年かかってしまいました。

改修前の和室
改修後の和室

改修ポイント・その2 『 外部空間の取り込み 』

蔵と一体になった円形ホールからは、遠く富士山が望めるよう設計されている。
様々な種類のインテリアに馴染む、ピーエスの製品
○母屋、離れ、2つの蔵といった独立していた建物を、内部空間を増やすことで非常にうまく繋げていますが、これらのアイデアはご自身で考案されたものなのでしょうか。

Wさん: ほとんどは設計を担当した吉本繁樹さん(吉本デザイン事務所)との話し合いで生まれたアイデアによるものです。良い建築物をいろいろ作っている方なんですよ。この家の改修にはいろんな制約がありました。例えば、古い家は軒が低く、新築部分の軒もそれに合わせないといけない。そうすると高さの制限の他に古い部材と新しい部材との取合いの問題がある。吉本さんはそんな問題もうまく解決してくれました。
だから中に入ってみると以前と全然違う空間であるのに、外から、特に正面から見ると概観はあまり変わっていないように見えるんです。

○蔵の前のホールも元々は外部だったのでしょうか。

Wさん: はい。この円形ホールのアイデアは吉本さんによるものですが、私の要望で床の位置を低くしてもらいました。床面を地面より掘り下げることで、椅子に座ったときに見える視界から余計な景色を飛ばすことできます。この椅子に座って窓の向こうを見ると、ちょうど富士山をきれいな形で望めるんですよ。後は西側の竹を少し刈って、竹林も遠くまで見えるようにしたいと考えています。

蔵とホールを併せて考えることで、熱環境的にも利点があるとお考えでしょうか?

Wさん: ここは熱源から一番遠いので、機械が動き始めのときはなかなか温まらない場所なので心配していたのですが、逆に運転が安定してくるとここが一番暖かくて快適ですね。蔵と新しいホールが共に高気密の空間になっているので、いかに高気密住宅の熱効率が良いかが体感できます。

○私も向こうからここまで歩いてきながら、変化を体感してきましたが、ここが一番居心地が良いと思います。

ピーエス:夏の場合はどうでしたか?

Wさん: 夏は冷えすぎて、窓ガラスに前面が曇って結露することもありました。冷暖房の熱効率に関しては問題はないと思います。

ピーエス:もともと窓面が大きいので、『夏は暑くなりすぎてしまうのではないか?』という心配がありましたが、それは大丈夫だったんですね。

Wさん: そうですね、木が茂っているので西日が当たらないというのが一番大きい原因じゃないかな。

○先ほどからどの部屋にも置かれているピーエスの機器は、実に空間に馴染んでいて目立ちませんね。

Wさん: そうですね、意匠の一部のようです。もちろんそれがこの製品を採用したひとつの理由です。
私がピーエスさんの製品を使うようになったのは、設計者の吉本さんから紹介して頂いたからです。

HR-C 製品問い合わせ : ピーエス暖房機(株)

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